うたポル歌会記―加賀田優子、鈴木ちはね、温(2022年6月1日)

歌会記

参加者

加賀田優子(かがたゆうこ)
@0ccak 1990年生まれ。「なんたる星」所属。

鈴木ちはね(すずきちはね)
@suzuchiu 1990年早生まれ、東京都在住。三上春海と同人サークル「稀風社」を運営。歌集に『予言』(書肆侃侃房、2020)。IKEA立川ユーザー。

温(あたむ) <司会・記>
@mizunomi777 「うたとポルスカ」運営、「イルカーン」メンバー。

詠草

口あいてるからつっこんでみた指をふつうに舐められていやだった
(加賀田優子)

IKEAのバッグにいろんなものを入れている人に道をゆずる青葉闇
(鈴木ちはね)

窓A 窓B 窓C どこからも尾が見えてるイルカ
(温)

歌会記

 お集まりいただきありがとうございます。今回の「うたとポルスカ」歌会は、加賀田優子さん・鈴木ちはねさんのお二人と一緒にやっていきます。お二人とも、個人的にすごく好きな歌人なので楽しみです。よろしくお願いします。

加賀田 よろしくお願いします。

鈴木 よろしくお願いします。

 それでは一首目から始めていきます。

 

口あいてるからつっこんでみた指をふつうに舐められていやだった

鈴木 〈口あいてるからつっこんでみた指をふつうに舐められていやだった〉。そうですね、なにか短歌一首に乗せられる標準的な情報量を仮に1としたときに、その1の器に対して1が乗ってる歌ってあると思うんですよね。

 はい。溢れさせてない歌ですね。

鈴木 これもそうで、どういう歌か説明をしようとすると「口があいてるからつっこんでみた指をふつうに舐められていやだった歌です」となる。いったん内容は置いといて、定型のリズムやポテンシャルを利用していない「1に対して1が乗っかってる」歌だと思いました。

 1に対して1.5や2を乗っけることもできるけど、っていう前提ですよね。

鈴木 そうです。悪名高い、「圧縮・解凍メソッド」があるじゃないですか。

加賀田 悪名高い(笑)。

鈴木 短歌という媒体を使えばより多くの情報量を込めることが、より多くのことを読者に伝えることができるんだよと。なぜ散文ではなく短歌で言うのか、と問われたときのために用意された回答だと思うんですけど。

 嫌そうに言いますね(笑)。

鈴木 それに対して私はアンチなんですけど。それって元々はよくわかってないひと向けの方便で、短歌はこんなに有益なんです、だから予算立ててください、というシーンで言われていたことだったんじゃないかと思うんですよね。それを、作っている側まで真に受けるのは違うのかなと思っていて。話が逸れたんですけど、実際には1に対して1でよかったり、あるいは0.3でもよかったりすると思うんですよ。これは韻律の話にもつながるんですが、短歌の切れ目を使わずに平明な語りの調子で読ませるトーンと、この情報量との具合が過不足ない感じがして、自分も形式としてはこういう歌作るし、わかるわかる、という歌だなと思いました。

 ありがとうございます。短歌という器が持つ情報量を1として……、っていう下りからとてもおもしろく聞いていました。ひらがなを多用した文体も、平明な語りの印象を補助している感じがしますね。「口あいてる」とか「ふつうに」とか「いやだった」とか、たとえば漢字で「嫌だった」と書かれるのとすごく質感が違うような。鈴木さん、「内容は置いといて」と先ほどおっしゃってましたが、内容についてはいかがですか?

鈴木 あんまり、内容の話するのは好きじゃないんですが……。だって、書かれている内容について話し合うんだったら、別に短歌である必要はないような気がして。まぁ、ちょっと思うのは、ちょっと手を離すのが早い感じはします。

加賀田 まだあったまってないみたいなことですか?

鈴木 いえ、そういうことではなく、いやだった話をしてるんですけど、語っている本人は「いやだった」ことに拘泥している感じがしない。「いやだった」のを伝えたいんだ!という気持ちがあると、もっと長く持つというか、語りがもっと別の調子になると思うんですよね。この歌は語っている内容に対するこだわりが、あまりない印象を受ける。

 すこしニュアンスが違うかもしれませんが、読者との関係性において政治をする意図が見えないというのは僕も思いました。たとえば「嫌さ」に共感してほしいという欲望が作者の側にあって、それをどうわからせようかという……たとえばあえて「嫌だ」と言わないとか、比喩に徹するとか、そういう方向ではなくて、エピソードをエピソードとして提示している印象がありますね。嫌だったという感情が自分に芽生えたところまでを一個のパッケージとして短歌にしているっぽい。

鈴木 何かを書く上で、共感を喚起させたい欲望があるかどうかって大事だと思うんですけど。そうだよね、嫌だったよねみたいな、それを読者に対して期待する向きというのはあって。温さんはそれを政治っていう言い方をして、政治……政治かなぁと思いながら聞いていたんですけど(笑)、相手に対して「こう読んでほしい」という補助線が引かれがちなところはあると思うんですよね。いかにも嫌そうな書き方をするとか、何かに喩えてみるとか。

 たとえばですけど、〈舐められたときのはるかな夕日〉とか言われたら、さては共感させようとしてるな?って感じがしますね(笑)。加賀田さん、ここまで聞いてどうでしょうか?

加賀田 めちゃめちゃおもしろくて、自分で作った歌っていうのがいまちょっと飛ぶくらいおもしろかった……それは作者としてどうなんだって感じですけど(笑)。そうですね、言われてみれば政治とか補助線とかを引くことに照れてるかもしれない、私は。〈なめられて沼〉みたいな……。自分でもちょっと違うなって思うので、それを言葉にしてもらった感じがします。

 〈なめられて沼〉もいいですね(笑)。いろんなパターンが作れそう。

加賀田 「なんたる星」で、チャットで歌会しているとときどきそういう、大喜利祭みたいなのがたまに発生することがありますね。

鈴木 それを聞いて思ったんですけど、「ウケたい」っていうのもひとつの政治ですよね。

加賀田 確かに。めちゃめちゃ政治ですね。

鈴木 それで言うと、この歌はべつにウケたい風でもない。そもそも「口あいてるからつっこんでみた」ってどういうことだよ!というのも、読者としては言えるわけじゃないですか。

 めちゃめちゃツッコミ倒す読者もいそうですね。そうすると笑いに着地できそうだけど、それは……ちょっと話が逸れるんですが、ツッコミがあってはじめて笑えたり、おもしろいと感じたりという現象があると思うんです。笑い以外の場合でも、誰かが「ここで抱くべき感想・感情はこれです」と補助することで、そのように味わえるという。この歌については、それに頼るのはもったいないかな、と思いますね。笑えるとか、変だとか、怖いとか、言葉にしようと思えばいろんな型にはめられるけど、それが全部混ざった未分化状態の感情を味わうほうが、受け取りかたとして豊かなのではないかと。というところで、次の歌に行きます。

 

IKEAのバッグにいろんなものを入れている人に道をゆずる青葉闇

 〈IKEAのバッグにいろんなものを入れている人に道をゆずる青葉闇〉。IKEAのバッグってあの青いやつですよね。さっきの情報量の話を借りると、〈道をゆずる〉までは1の器に対して1だと思います。狭い道を歩いていたら、向こうからIKEAのバッグにいろんなものを入れたひとが歩いてくる。何入ってんのかな……と思いつつその人に道をゆずる、というエピソードが過不足なく語られている。だけど最後に〈青葉闇〉が出てきて、すこし位相が変わるのがポイントかな。別の次元から持ってこられる美しい単語、うっすらとした憂鬱さも爽やかさも感じさせる語によって、歌のなかで磁場が変わる様子がおもしろいです。加賀田さんはどんな風に読みましたか?

加賀田 いちばんおもしろいのは〈いろんなものを入れている〉だと思って、本当にごちゃっといろいろなものが入っているんだと思うんですよね。そのひとの暮らしのもの全般が詰め込まれてるのかもしれないし、それかIKEAでたくさん買い物してきて、これから新生活かな、暮らしをいい感じにしていくんだろうな、と思いながら……相手はどういうひとなんだろうって思いながら道を譲る、っていうのがおもしろかったですね。IKEAのバッグがブルーシートっぽい素材、というのもあって。

 ブルーシートって〈いろんなもの〉的な、「雑多なものが置かれている」状況と相性がよいですね。

加賀田 なんかこういう、あるけどわざわざ話さない、でもすごい心に残る、何年か後とかに道歩いててフワって思い出しそう……という感じがあって。IKEAのバッグ、すごい包容力だなって思います。今度IKEAのバッグ見たらこの歌を思い出しそう。

 思い出しそうですね。あとこれが、心に残ったからと言ってツイートとして表れてきたらどうだったんだろうと思って……。ツイートだった場合と比較して、短歌定型の力によって〈いろんなもの〉がマジでいろんなものになっている気がします。

加賀田 いま聞いてて思ったんですけど、〈いろんなもの〉が結局、「闇」と一緒なのかもしれないですね。

 そうかも! 「闇鍋」みたいな意味合いの「闇」ですよね。

加賀田 たとえばここで、〈いろんなもの〉でなく入っている具体的なものを描写してたら、それこそツイート的なんかなっていう。短歌とツイートをぶつけあっていいものかわかんないですけど(笑)。スパナが入ってたとか。

 かわいい犬のぬいぐるみ入ってて意外だった!とか。

加賀田 そうです。でもそうは書かれなくて、〈いろんなもの〉っていう言い方が……。〈青葉闇〉もあるぶん、やや薄暗くて、絶妙な方向付けのような気がする。

 確かに、最後ふっと闇が落ちている感じがありますね。ありがとうございます。鈴木さんここまで聞いてどうでした? 感想とか。

鈴木 感想……。IKEAのバッグっていうものがいろんなものを想起させるんだなって、おもしろく聞いてました。ただ個人的には、自分の歌の評されてるときってあんまりちゃんと聞いてないんですよね。

加賀田 (笑)。

鈴木 まったく聞いてないわけではないし、今は3人しかいないから聞いてないとまずいだろうなと思ってるんですけど、あんまりどう取られるかとか深く考えてないっていうか、どういう風に読んでほしいというのも正直なくて。だから解題をするならば、IKEAのバッグにいろんなものを入れてる人が前からやってきて、道を譲ったっていう歌なんですけど。

 これ以上ない解題だな。

鈴木 その歌をこんなに読んでいただいて……。

加賀田 これ、なんかどのくらい、本当のことですか? ちょっと話がずれるんですけど。

 本当のことっていうのは、作者に実際に起こったことですか?

加賀田 そう、そうです。

鈴木 そうですね、あんまり、いま現実で起こったことを「これ短歌にしよう!」とか思わないですよね。

加賀田 確かに、それはないな私も(笑)。

鈴木 こういう出来事があったか、なかったかで言うと、あったと思うんですけど、「昨日こういうことがあったから歌にした」わけではないんですよ。実際に起こったかどうかではなくて……だから、32年とか生きてくるじゃないですか。で、ペットボトルがあるわけですよね。

加賀田 ペットボトル(笑)。ペットボトルなんですね。

鈴木 ペットボトルの、下を切った状態のやつ。理科の実験とかで砂か何かを詰めて、上から水を垂らすと下から滲み出てくるみたいな。そんな感じのイメージです。でもそれって注ぎ込んですぐ下から滴り落ちてくるわけじゃないから、いつの何がこうなったとかは、あんまりハッキリ言えないですね。

加賀田 うんうん。あの、短歌やってない友達に作品を見せると「これ本当にあったことなの?」って聞かれるから、今ふと、この歌もその子に見せたらそう言われそうな感じがして。

鈴木 自分の記憶とか経験とかって、そんなに確からしいものなんですか、とも思いますしね。何者かによって改ざんされていないとどうして言えるのか、っていう。

加賀田 そんな、マイクロチップとか……。

鈴木 短歌やってるひとでも、これ事実なんですか?って問うひといるじゃないですか。でも自分が事実だと思っていることって、本当に事実なのか?という問題がある以上、その問いの立てかたって、成立するのかなと思います。

 切実な感情を扱っている場合だと、気になる率が高まるのかもしれないですね。鈴木さんの今回の歌だと「よくこの状況をピックアップしたな!」っていうこのひとの着眼点そのものに感動するから、「本当のことか気になる」という図式はすこしわかります。だけどその、「よい短歌を詠むためにはよく生きるべきだ」みたいな態度に行ってしまうと……。

鈴木 あ、私はそう思いますね。

 「よい短歌を詠むためにはよく生きるべきだ」ですか?

鈴木 そうです。

 これからその悪口言おうと思ったのに(笑)。要は、「よく生きているがゆえに、こういうものを見逃さずに捕らえられる」という考えが背景にあっての、「おもしろい状況を自分で作り出したんじゃなくて、ちゃんとよく生きたから見つけられたんだ」という感動をしたいがゆえの、「本当のことか気になる」じゃないかなって推測なんですけど……。正直わかるんですけど、これが度を越して、短歌ではなくそのひとの生きる姿勢やよし!に感動しはじめてしまうと、途端につまんなくなるのでは、って感覚があります。

加賀田 いま、その作者のひとがここにいるという最強にレアな状況だから、本当は何が入ってたのか聞ける千載一遇のチャンス!みたいに思って。

 確かにそれはそうですね。ちなみに、何が入ってたんですか?

鈴木 まぁ歌の評でも出てましたけど、IKEAのバッグって頑丈で大きくて、それに重たいものとかかさばるものを入れているのはぜんぜん普通なんですよね。そうじゃなかったから印象に残った、っていうのはあると思います。なんかあの、明日から夏休みの小学生って、ランドセルに何でも入れて下校するじゃないですか。あれにちょっと近いかもしれないですね。

 なるほど。お道具箱の中身とかですね。

加賀田 ちょっとずつ持って帰れって言ったやん!ってやつですね(笑)。

 ありがとうございます。それでは、次の歌に移ろうと思います。

 

窓A 窓B 窓C どこからも尾が見えてるイルカ

加賀田 〈窓A 窓B 窓C どこからも尾が見えてるイルカ〉。なんかだまし絵、エッシャーの絵っぽいと思って。ぜんぜん地面がない世界だなと。あの、赤ちゃんの寝るベッドの上についてる、めっちゃ回るやつあるじゃないですか。

 赤ちゃんがキャッキャするやつですよね。

加賀田 そうです。あれ、あれの感じでしたね。頭の中でぐるぐるイメージを回せておもしろいなっていうのはありました。で、「窓」って中から外に出ていける接点だと思うんですけど、その窓が3つも出ているのに、めちゃめちゃ閉じてる印象の歌で。どっからでも尾が見えてるから……でもイルカって判別できてるからな。イルカ……え、どうなってんだろう?(笑)やっぱ異空間ですよね。どうなってるんだって、ずっと回しておける。そんな感じでした。

 ありがとうございます。視点がこう、固定化されてないっていうところですかね。鈴木さんどうですか?

鈴木 そうですね。私はどっちかというと、論理クイズというか思考実験というか、「この情報をもとにどういうことが起きているか作図しなさい」みたいなことかなって思いました。

加賀田 灘中とかだ(笑)。

鈴木 そう、だから温中(あたむちゅう)の入試問題。

 温中(笑)。

加賀田 そうかも(笑)。試されている。

鈴木 窓A、B、Cがあり、そのどこからも尾が見えている。要するに、平面が3つあって、そのどこからもある1点が見える。ということは、その1点を三方から取り囲んでいる3つの窓があるんじゃないかと。それはどんなだろうって考えて、たとえば水族館の水槽だったらそういうこともあるかもしれない、みたいな。条件を提示することで浮かび上がらせようとしている、っていう歌だなと思いましたね。

加賀田 なるほど。

鈴木 意外と短歌的だなって思うのは、上句の〈窓A 窓B 窓C〉の部分が……五句だよっていう主張をしている。短歌って上が三句・下が二句の五句でできていて、それは五七五と七七であるよ、っていうレギュレーションをみんな信じてるじゃないですか。

加賀田 信じてる、うん信じてる(笑)。

鈴木 その固定観念を利用した上句だと思うんですよ。上が三句だから〈窓A 窓B 窓C〉の3つなわけで、窓Bまでで終わることはないし、窓D以降に続くこともない。そこに、ただの条件提示にとどまらない、このテキストを短歌として読んだからこそしっくりくる感じがある。そして短歌のレギュレーションを意識しなければ、先ほどの「三方から1点を囲んでいる」景も必然性がないんですよ。一番大きいのは、観測者がどこに立っているのかを提示しなくてもよくなるところかな。これが温中の問題だったら「◯◯くんは窓Bの前に立っています」と書かせる気がするんですよね。

 温中、さもあるかのように。

鈴木 それと、上句って五七五じゃないですか。五音と七音があって、それを窓A、B、Cに当てはめると、窓Aと窓Cが同じ幅で、窓Bはちょっと幅が長い感じがしてくる。

加賀田 五・七・五の長さの窓ってことですね(笑)。おもしろい。

鈴木 要するに、この歌はかなり「短歌である」ことを、言ってみれば逆手に取っている。「短歌である」ことによってイメージが喚起されやすくなっている気がします。

加賀田 確かに、読み上げた時めっちゃスラスラ読めました。何も考えずに、五七五に合ってないという意識すらなく。

鈴木 今日の3首のなかで、いちばん定型に乗ってますよね。

加賀田 ほんとだ、そうかも!(笑)

鈴木 この3首のなかでどれがいちばん短歌ですか、っていう択一問題で言ったらこれかもしれない。

 また温中の入試だ。

加賀田 今日は入試対策がすごい(笑)。

 でも破調に見えて、短歌定型に対して順接と言うか、おもねってる感じはありますね。

鈴木 やっぱりこういう、言ってみれば短歌のリズムを謳歌しているのは、それだけ短歌定型を信頼しているからだと思うんですよね。リズムを内面化した読者を想定しているからこそ、こういう上句が作れる。そういう意味でも短歌らしい短歌と言えるんじゃないですかね。

 ありがとうございます。評を聞いていて作者としても、かなりリズムのことを考えた歌だったなと理解できました。「下句の七七は定型どおりにしないとな……」となんとなく感じていたのは、上句がそうだったからなんだなと。

鈴木 あ、そうですね。これで下句がきれいじゃなかったら、上句の説得力も消えてしまう。

加賀田 ちょっと景の話に戻っちゃうんですけど、これもしかして、すごいでかいイルカなのかな。

 あぁ、尾だけが見えるくらい。

加賀田 そうです。この3つの窓では尾しか捕捉できんくらい、先にイルカがまだ広がってるのかも……。やっぱり、さっきから「入試問題っぽい」みたいな話が出ているのは、みんながこれを読んでどんな景と思ったかが知りたくなる歌だからなんでしょうね。

鈴木 なんかそういう、「設問の構文」を短歌にするやつあるじゃないですか。

 〈問十二、夜空の青を微分せよ。街の明りは無視してもよい〉(川北天華)みたいな。

鈴木 そうです。それ、ではないんですよね、この歌は。条件だけ提示して、それをどう組み立てるかは読者に委ねているように思います。実際に作者がどんな気持ちで作ったのかはわからないですけど。もしかしたら「温からの挑戦状」みたいな感じなのか……。

加賀田 これが「温からの挑戦状」っていう連作だったらね。

 「温からの挑戦状」っていうタイトルの連作ですか? ドダサだな(笑)。

加賀田 それは中身で取り戻す想定で。

 なんで一回、タイトルで損しないといけないんですか?

加賀田 さっきの〈問十二〉は、算数の問題を音数合わせて短歌にするという、作者による発明的な作品かなって思うんですけど。〈窓A〉の歌はそうじゃないですよね。作者ではなくて、読者の側に考えさせようとしてて。こういう、一緒に遊んでくれそうな歌は楽しいですね。

 ありがとうございます。それではこのあたりで、3首目も終わりたいと思います。本日はありがとうございました!

加賀田 ありがとうございました。

鈴木 ありがとうございました。

(2022年6月1日、Zoomにて)

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