【短歌12首】記載した炎 — 新上達也

    記載した炎   新上達也

健康のために画面を見る際は目の奥のしずかな雨を聴け

大丈夫としか言えない吹き抜けの天窓の月ほどの遠さで

安全にご利用いただくために死ぬすべての緩衝材に祈りを

太陽が川で沈んでひかってる架空の犬を連れて歩いた

打ち水で涼しくなったつもりでいるアスファルト燃えろ、燃えろ、許すな

懐かしいけど別に帰りたくはない家に忘れている最終巻

一単語で通じる  かつてあの帰路で話したことに何度も笑う

手紙には書かれていたが気づくのに五年かかるどうでもいい駄洒落

夕立の速度で言ってそのままの約束をシャツごと濡れていく

バスタオルいらない着替えなくていい走る雨上がりの国道を

カスタマーサービスセンター、記載された住所で花が燃えてる、早く

頭ん中同じ文字で埋めてしまうちからを吸って、吐いて、記した

◇新上達也(しんじょう  たつや)
1990年広島生。早稲田短歌会OB。
演劇ユニット「水道航路」主宰。







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