【短歌30首】そばの花 — 鈴木ちはね

    そばの花    鈴木ちはね

霧雨につつまれながら交差点の対角にあるガスステーション

中野区を注意深く歩いているとまれにある新社会党のポスター

サスティナブル・ディベロップメント・ゴールズ  雪が降って楽しかった記憶

フィットネスクラブが地域最大級だからって何だというのだろう

首だけの気球が飛んでいく夏がずっと昔に思われてくる

売り尽くしの幟が五つはためいてドラッグストアの閉店セール

PKは心臓に悪いから見ないというオシムの気持ち  オシムの言葉

霊園が避難場所にもなっている  いつか霊園に避難するとして

セダン型のタクシーは将来的になくなるらしい  東京無線

吹き抜けのあるビルにいる  中心をあえてくり抜く構造がある

May Peace Prevail On Earth  世界人類が平和でありますように

新宿のはずれから見上げてみると  花束のように秋の新宿

七五三みたいな恰好をしている女の子  七五三だった

冷蔵庫を開けると中が冷蔵庫  国破れて山河あり的な

区役所の出先のようなところでも古い電池を回収している

電池で動くものも少なくなっている  十一月の土曜日のこと

もともとはコンビニというわけではない物件にも入るコンビニのすべて

冬晴れの松涛美術館を出て神泉駅まで雰囲気で歩く

長ねぎがいくらなんでも長すぎてどこにも入らない日曜日

ワン・センテンス・ワン・イシュー  この雨は雪だったかもしれなかった

建物がなくなって駐車場ができる Don’t Trust Yahoo!天気

池袋西口行きのバスのなかポケットティッシュがくしゃくしゃになる

そばの花  そばの畑を見たことがないならいちど見たほうがいい

わたしには矜持があるのでふるさと納税はしない  みなさんはどうぞ

なくなってしまった灰皿たちがいつか帰ってくるように祈っている

この部屋に本棚をもうひとつ置ける可能性を発見してしまう

追伸はとてもたのしい  追伸と書くときにだけ昂ぶる器官

スーパー・サイエンス・ハイスクール  松の枯れ葉がやたら落ちている

プリズムのシールが貼ってある箪笥  あしたもし天気がよかったら

上野駅の公園口がいつのまにかきれいになっていてびっくりした

◇鈴木ちはね(すずき ちはね)1990年早生まれ、東京都在住。三上春海と同人サークル「稀風社」を運営。歌集に『予言』(書肆侃侃房 2020)。蕎麦は食べる派。



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