初夢 原田彩加
占いの看板の灯を過りつつ現状維持のまま冬がくる
水たまりに浮かぶイチョウの小ささは疎遠になった人の小ささ
同じ生地で作られているスカートと地下鉄の駅にてすれ違う
変わらない水面を漕いでゆくように一日一往復のメールで
水をやる加減がわからないままに そっぽを向いて育つ植物
冗談も言わずに過ぎてゆくときのもう見られない横顔だった
冬にだけ見える影絵の鳩たちが駅のホームを右へ左へ
川底のような静けさ十四時を過ぎたお店で酢豚を食べる
レピュテーションリスクを指摘するときの窓一面に浮かぶ雨粒
手放してしまった先の水面にプラスチックがちかちかとする
底冷えのする夜 壁の向こうからきみの吹く口笛が聞こえた
わらったりないたり一日したあとのわたしの瞼から写し取る
おそらくはきれいなものを見る遊び 高い場所からみかんを落とす
もう誰も争わないでそこにいるアデリーペンギンを見習って
手さぐりで仲良くなってゆくように青と黄色で編んだマフラー
いつまでも甘やかされて暮らしたい手のひらみかん色になるまで
スプーンをくわえてきみは立っているどこでもドアを開ければそこに
散らかった初夢でした目鼻口だれかわからぬままに目覚めて
手で漉いた紙は分厚い圧しても圧しきれないこころのように
いつの世もきっと大変なんでしょう冷蔵室の野菜が芽吹く
◇原田彩加(はらださいか)
歌集『黄色いボート』(新鋭短歌シリーズ31/ 書肆侃侃房、2016年)
同人誌「砂糖水」編集部のひとり。