【短歌30首】ドゥ・ドゥ・ドゥ — 谷川由里子

    ドゥ・ドゥ・ドゥ    谷川由里子

まばたきで恋に落ちたら  バック・トゥ・ザ・フューチャーのドクの胸飾り

3ヶ月先の寒さの完璧なムーンウォークを思い浮かべる

月がひかってる月がひかっているチャンスを棒に振るように生きて

木が根から抜かれるところ見たあとに声変わりするほど深く寝た

レモンティーの香りとわかるこのホットケーキシロップこの世の限り

傘の杖  モールス信号送るから  どこかできみが泣かないように

コーヒーカップに珈琲の跡  ままならない私たちのコミュニケーション

猫の舌が爛れたわけを考える王冠もイージス艦もゆっくり沈む

鎧には鎧を重ねられなくて新しいスプーンで召し上がれ

ルビーの耳飾り  空気が見に来てくれて  時々ルビーと空気が動く

首里城が燃えているのを肉眼でみているひとをテレビでみてる

台風の過ぎたばかりの満員の電車に落ちてるけろけろけろっぴ

神がかってる日は笑いながらターキーがとれる次がダメでもスペアにできる

バルセロナバルセロナに行くその日までバルセロナに行くまでのこの日々

お布団を噛み締めているほんとうに噛んだら羽毛があちこちに飛ぶ

友だちの実家の林檎たべるまで花の代わりに玄関に置く

ピアノ、ピアノ、88の鍵盤の  冬の展望台の空気の

スモーキーなチーズと太陽系の外側から近づく彗星の画像と

肩車をしたい気持ちで冬の日と晩ごはんの買い出しをする

カナブンを片っ端から静寂に放つわたしはこんなに元気

宝箱みたことないからみつけたら青空のした釘付けになるかも

金色の扇子を開くときの顔で、バースデー・ソングを歌い出すひと

バースデー・ソングは歌い出す前の表情さえもバースデー・ソング

すっぽりと月がみずからポケットにもぐってしまう恋に落ちたら

清志郎の低いジャンプも今がいいカール・ラガーフェルドの白髪

千四百円のフィッシャーマンニットを着て千四百円の価値を上げたいな

恵比寿ガーデンプレイスは一年中イルミネーションがあるからね

赤星があるならいつも赤星で雰囲気が味わいを変えるよ

あれはたぶん壊れた針をふたつとも外した梟の掛け時計だ

ずっと月みてるとまるで月になる  ドゥッカ・ドゥ・ドゥ・ドゥッカ・ドゥ・ドゥ

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