【短歌20首】初夢 — 原田彩加

    初夢    原田彩加

占いの看板の灯を過りつつ現状維持のまま冬がくる

水たまりに浮かぶイチョウの小ささは疎遠になった人の小ささ

同じ生地で作られているスカートと地下鉄の駅にてすれ違う

変わらない水面を漕いでゆくように一日一往復のメールで

水をやる加減がわからないままに  そっぽを向いて育つ植物

冗談も言わずに過ぎてゆくときのもう見られない横顔だった

冬にだけ見える影絵の鳩たちが駅のホームを右へ左へ

川底のような静けさ十四時を過ぎたお店で酢豚を食べる

レピュテーションリスクを指摘するときの窓一面に浮かぶ雨粒

手放してしまった先の水面にプラスチックがちかちかとする

底冷えのする夜  壁の向こうからきみの吹く口笛が聞こえた

わらったりないたり一日したあとのわたしの瞼から写し取る

おそらくはきれいなものを見る遊び  高い場所からみかんを落とす

もう誰も争わないでそこにいるアデリーペンギンを見習って

手さぐりで仲良くなってゆくように青と黄色で編んだマフラー

いつまでも甘やかされて暮らしたい手のひらみかん色になるまで

スプーンをくわえてきみは立っているどこでもドアを開ければそこに

散らかった初夢でした目鼻口だれかわからぬままに目覚めて

手で漉いた紙は分厚い圧しても圧しきれないこころのように

いつの世もきっと大変なんでしょう冷蔵室の野菜が芽吹く

◇原田彩加(はらださいか)
歌集『黄色いボート』(新鋭短歌シリーズ31/ 書肆侃侃房、2016年)
同人誌「砂糖水」編集部のひとり。

タイトルとURLをコピーしました