【短歌20首】旅 — 盛田志保子

    旅    盛田志保子

駅なしにかなわぬことのいくつかを思えば燃えるような心臓

生きたまま仕留めた夏を数か月先の未来に置きにいく夢

肝試しのマインドに近いあの闇は本物だって言い続けたい

朝早く起きれば山に登る日の暗い覚悟と聳える時間

意味もなく邪気もない日は引き出しをあけて鍵盤叩く真似する

答えはない漂うだけでいいのだと五月の紙がペラペラ喋る

借りたまま返せぬギターアコーディオン時間旅行の鞄の匂い

「春はあけぼの」孫に「じいじは」と問われ「じいじは春夏秋冬たそがれ」

たそがれは普通に父の好物でたそがれたそがれ言って見に行く

たそがれは「仕事を終えてさあ飲もう」「最高」「いつも変わらない」「色」

美しい日それは種  降り注ぐように毎日ばらまかれている

壮大に機嫌が戻るああおまえよくやったなとかなしみが来る

変わらなきゃならないのかな目をこすり弾ける今日を前掛けにする

わきまえが過ぎれば人は友さえもなくす変なテンションよ来い

はっきりと線を描いて行き来する宅急便のサイズの愛は

行き来する荷物のように体ごと運びたいのに青いふるさと

ふるさとの地ビールを飲み高原に来たようだって目を見張る春

雨の日のノースポールが揺れているあんなにたくさんくっついて咲く

忘れ物ないですかって聞かないでわかってしまう旅の終わりが

メモ帳に時間と言葉メモ帳に時間と言葉千切って海へ

◇盛田志保子
岩手県生まれ。未来短歌会所属。[sai]同人。
歌集『木曜日』、散文集『五月金曜日』(晶文社)。

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