【ブックレビュー】『Dance with the invisibles』(睦月都)

夜のプールに脚をひたすやうに降りてゆく階段が地下劇場へと続く 長電話終へたる部屋の遠き無音 ネアンデルタールの洞窟に似しか 悲し、とふ言葉が今朝はうすあをき魚の骨格となりて漂ふ  現実と重なり合うようにして、半透明のまぼ...

【きょうは傘とか歌ありがとう 6】俵万智『未来のサイズ』 ― 笠木拓

 朝ごとの検温をして二週間前の自分を確かめている  俵万智『未来のサイズ』  3章構成の歌集の、巻頭に置かれた歌。Ⅰ章は「2020年」の副題が付されており、掲出歌も新型コロナウィルスの流行により変化を余儀なくされた生活の一部を切り取...

【きょうは傘とか歌ありがとう 5】山下翔『meal』 ― 笠木拓

 待つ宵に更けゆく鐘の聲聞けばあかぬわかれの鳥はものかは  小侍従 吐き出してしまへば楽になるやうな宵の大路が蟬声を吐く  山下翔『meal』  これを書いている今、わたしたちはながい〈待つ宵〉にいる。 小侍従の歌は歌人の二つ名の由...

【きょうは傘とか歌ありがとう 4】山木礼子『太陽の横』 ― 笠木拓

 『太陽の横』は山木礼子による自らの指名手配書である。  後ろ手に髪をくくれり夜の更けを起きて詩を書くならず者にて しぼみたる胸をしぼれば耐へがたく美談のやうにまだ乳が出る 三年をともに過ごして子はいまだ母の名前を知らずにゐたり ...

【きょうは傘とか歌ありがとう 3】島田修二『渚の日日』 ― 笠木拓

 筑摩書房の『現代短歌全集』第17巻を一息に読んだのは、大学を休学して実家に戻っていたときだった。とりあえず新しいほうから読もうと思って、まずは昭和55年から63年まで刊行の歌集を収めるこの巻を手に取った。多かれ少なかれ「自分の悲...

【きょうは傘とか歌ありがとう 2】高島裕『盂蘭盆世界』 ― 笠木拓

 青天のごとき声もて問ふべきに 9条改正論の萎え魔羅  高島裕『盂蘭盆世界』  記憶が正しければ、歌会でこの歌を読んだのは2016年の春だった。 集団的自衛権の行使容認を含む、いわゆる安保法制が施行されてまもなくのこと。それが国益だ...

【きょうは傘とか歌ありがとう 1】谷じゃこ『クリーン・ナップ・クラブ』 ― 笠木拓

歌人の笠木拓さんが毎月一冊の歌集を取り上げる歌集評連載。第一回は谷じゃこ『クリーン・ナップ・クラブ』です。*** (執筆者:笠木拓)  谷じゃこさんの短歌を読んでいると、真面目だなあといつも思う。  ピザまんの紙を夕日...

【ブックレビュー】『サワーマッシュ』(谷川由里子)

(執筆者:温)  この本の表紙は不思議な色をしている。何色と表現すればいいんだろう。遠い国の海の色みたいな感じ。つるつるして光沢のあるこの紙には、「SOUR MASH YURIKO TANIGAWA」と印字されている。 開くと目次が...

【一首評】木曜日のひびきが好きで有休をとるなら木曜日に休みたい/椛沢知世「りんごの味」(吉田恭大)

木曜日のひびきが好きで有休をとるなら木曜日に休みたい椛沢知世「りんごの味」  分からないときは図に書いてみよう。図に記すその手つきを追っていると、何のことだったのかわかる。まさにいまこの人は図を書いているところ、みたいな把握の瞬間が...

【ブックレビュー】『それぞれの街に降る雨についての数行』(朱位昌併、千種創一、?田恭大、2020年)

(執筆者:温) 「それぞれの街に降る雨についての数行」は、活版作家・増本綾プロデュースの活版印刷による詩歌の作品集です。 詩人の朱位昌併、歌人の千種創一、吉田恭大の三人による作品に、それぞれアイスランド語、アラビア語、中国語の翻訳を...
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