【一首評】木曜日のひびきが好きで有休をとるなら木曜日に休みたい/椛沢知世「りんごの味」(吉田恭大)

木曜日のひびきが好きで有休をとるなら木曜日に休みたい

椛沢知世「りんごの味」

 分からないときは図に書いてみよう。図に記すその手つきを追っていると、何のことだったのかわかる。まさにいまこの人は図を書いているところ、みたいな把握の瞬間が椛沢さんの歌にはある。
 (木曜日のひびきが好き)という発見と、(木曜日に休みたい)という願望は、どちらが先に来るのだろうか。「有休をとるなら」という勤怠上の、極めて現実的な仮定を挟んで対置された木曜日は、どちらがどちらの言い訳にも聞こえてくるような感覚がある。

はちみつ入り黒酢飲料はりんご味ふたくちめからりんごと分かる

椛沢知世「りんごの味」

 はちみつ入り黒酢飲料、の、パッケージにはおそらくりんご味と表記があるだろう、それが具体的に味覚として「分かる」までにふたくち飲む。ふたくち分の時間は、飲料の味を知っている読者の「それな」という共感よりも、単純に(ちょっと風味の強い)飲料を飲むという行為のために費やされていて、まさにいまこのタイミングでこの人が知見を得た、ことが分かる。その瞬間が少しうれしい。

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