ポーランド日記 12/15 – 12/24

ポーランド日記

2019/12/15(日) 晴 8℃
おとといの夜から風邪気味で、昨日は一日寝て過ごし、今朝になって調子が良くなった。薬は日本から持ってきたものを飲んだ。こっちでも合う薬を探し始めないとな、と思う。

朝からFacebookで部屋探しをする。
こちらはルームシェアが主流で、ワルシャワの中心部で探したとき、光熱費や通信インフラ込みで1部屋だいたい3〜4万円前後の価格帯が多い。部屋は個室で、キッチン、バスルームは共用。
部屋は基本的にオーナーとの直契約で、Facebook上の入居者募集のポストも、大家本人か引越しを控えた前の住人が出していることがほとんどだ。

普段はほぼ全く使っていないFacebookのプロフィールを更新し、写真をなるべく感じのいいものに替えて、気になったいくつかの物件にPMを入れる。写真は肩にインコを乗せている写真にした。11月の連作吟行でみんなで三鷹の「ことりカフェ」に行ったときに撮ってもらったものだ。まだ1ヶ月しか経っていないのに、なんだかすごく昔のことのような気がする。

12/17(火) 薄曇り 8℃


ネコの肉球を触り、kindleで「BEASTARS」を読んで一日が終わった。

2019/12/20(金) 晴 4℃
日本から持ってきたダイソーの炊飯マグの蓋を、棚でじゃれていたネコに落とされて割れてしまい、朝から落ち込む。
不用意に置いていたのが悪いのだが、ちょっと、誰にも優しくできなくなりそうだったので、ごめんねと声をかけながらネコたちには部屋から出ていってもらった。

自分はもともとあまりお米を食べなくて、日本にいたときも炊飯器を動かすのは月に1~2回程度だったし、このマグも、こっちに来てから炊飯目的にはまだ一度も動かしてなかったから、不要といえば不要なのだ。

お米はこっちにもふつうに売られている。細かい孔のあいた袋に一人前の生米が入っていて、沸騰したお湯で15分ほど茹でると食べれるようになる。

まえ作った麻婆豆腐

お米へのこだわりが薄いのかもしれないが、炊いたお米とは食感がちょっと違うけどまあふつうにおいしいし、洗米とか浸水とか蒸らしとかの煩わしさもなく、これでぜんぜんいいじゃん、と思っていた。
なのに炊飯マグひとつでこんなにショックを受けているのは、たぶんその炊飯マグが壊れたことやお米がどうのうというのは本質的ではなくて、いわゆるホームシックのひとつの表出なのだろう。生活に慣れてきたこともあって、ここ数日はどことなく憂鬱な気分が続いている。夢をよく見る。私が夢をよく見るのはたいてい精神が不安定な時だ。夢に出てくるのは日本の友だちで、言語空間は英語と日本語とポーランド語がまざっている。

部屋に一人でいると落ち込みすぎてしまいそうなので、街に出て、カフェに入る。
コーヒーを飲みながらぼうっとしていると、高校生の頃によく聴いていたけれど消息不明になってしまったバンドによく似た音作りをしている音楽が流れてくる。急いでSoundHoundを立ち上げて曲を調べるが、全く関係のない、最近のバンドらしかった。とりあえずSpotifyでフォローしておく。

暗くなってから家に帰るとキッチンにアガタさんがいて、「あしたアニャ(娘)とアニャの彼氏とスケート行くんだって?」と訊かれる。そうだった、と思う。このあいだのパーティでそんな話をしたけど、社交辞令かなと思って、ちょっと忘れかけていた。

「でもまだアニャと連絡取ってないんだけど……」と言うと、アガタさんは「大丈夫だよー」と笑う。そうか、大丈夫か、と思う。

12月21日(土)  曇 7℃

朝8時、アニャからInstagramでDMが来ていて、「今日スケート行くよね?1時くらいにそっち迎えに行く」とあった。「スケートたのしみ。待ってる」と返信する。

時間通りにアニャとその彼氏が来て、出かける前にアガタさんの作ったご飯を食べることになった。トマトのマリネ、ピクルス、フムス、蒸しキャベツ、トーストが並ぶ。

彼はオランダ人だそうで、年末はアニャと一緒に彼の実家で過ごすそうだ。
ワルシャワからオランダまでは飛行機じゃなくて鉄道で行くのだと教えてくれる。鉄道だと12時間かかるそうだ。だから車内で観る映画のプレイリスト作成が喫緊の課題だという。そう言いながらふたりとも楽しそう。

ワルシャワ国立競技場は巨大な建造物だった。地下鉄駅で降りてヴィスワ川を渡り、徒歩で15分ほど。大きな建造物によくある、目の前に見えているのに歩いても歩いても近付けない、蜃気楼を見ているかのような錯覚に見舞われる。

スケートは今年の冬になってはじめてで、久しぶりだったからか、靴が少しきつかったせいか、リンクに立ってすぐ派手にひっくり返ってふたりを心配させてしまった。来るとき、歩きながら「スケートどのくらいできる?」みたいな会話をしてて、自信満々で「私わりと上手いよ」とか言ってしまってたので、恥ずかしくて笑う。二人の手を取って起き上がる。

1時間ほど滑って出ると外はもう真っ暗で、時間はまだ16時過ぎだった。彼氏のほうは明日予定があるということで、そこで別れる。私は本屋に行きたかったのでそういうと、アニャも本屋に用事があるというので、一緒に行くことにする。

アニャは図書館に勤務していて、児童書の選書を任されているのだと、そして新しい児童書を見つくろいに行くのだと、トラムの中で話しているうちにわかる。私は絵本が好きで、ポーランドでもずっといい絵本を探していて、今日も絵本を買うために本屋に向かっていたので、突然、目の前の女の子が天使みたいにかがやきはじめる。良い絵本を教えてほしいとせがむとアニャは「任せて」と言い、トラムを乗り継いで、児童書の充実した書店に案内してくれた。小規模な店内にぎっしりといい本の詰まっているタイプの、素敵な書店だった。肩が外れそうなほど絵本を買う。

DEDALUS.PL – Warszawa ul. Chmielna 20

12月22日〜23日

思い立ってクラクフにいく。

12月24日(火) 雨 5℃

クリスマスイブ。クラクフで買ってきた、アガタさんとアニャへのプレゼントをラッピングする。

夕方から、アガタさんの家族が集まり始める。アガタさんの娘のアニャ。アニャのいとこのゾーシャ。ゾーシャの両親。アガタさんとゾーシャの父の母、アニャとゾーシャにとっては祖母。祖母の弟。アニャの猫と、ゾーシャの家の犬。私を入れて人間8人と猫5匹、犬1匹。この家にはめずらしくネコよりも人間のほうが多い。

カトリック信者が多数を占めるポーランドではクリスマスは最も大事な年間行事で、イブは家族とともに過ごすのが定番。さらにイブの夜は酒や肉を摂らず、12品もの伝統料理でお祝いをする。

まず最初に祈りを唱えてから、opłatek(オプワテック)という聖餅を口にする。これは教会のミサでいただく聖体と同じもののようだった。それからディナー開始。

ポーランドのクリスマスにはいろんな風習があるけど、なかでも気に入ったのは〝客人の数より一組多くの食器を用意しておく〟というもの。
誰かが急に訪ねて来ても、それがたとえ全く知らない通りがかりのお腹を空かせた人でも、大切なクリスマスイブの夜を一緒にお祝いできるように、あらかじめひとりぶん余分の食器を用意しておくのだという。バルシチ(ビーツのスープ)も、この空席の訪問者のためにひとつ多くよそう。そこにいない他者ための食器、来るかもしれない誰かへのスープ。美しい風習。

ゾーシャは20歳すぎだろうか。髪を青く染めていて、腕や手にも髪と同じ色のタトゥーがたくさん入っていて、パンクロッカーのように細い皮のパンツを履いていた。そして、そのどれもが彼女にあまりにもよく似合っていた。

指の関節にアルファベットのタトゥーが入っていたのでどういう意味か聞くと、両手をグーにして突き出して、「左手は”dość”、ポーランド語で”enough”の意味。これに右手の”ra”を付けると”radość”、これは”enjoy”。気分によって使い分けられて便利でしょ」といたずらっぽく笑って教えてくれる。

アニャが「じゃあその棒人間みたいなのは?」と左腕に入ったタトゥーを指すと、「これは丸刈りのブリトニー・スピアーズが傘でパパラッチ襲撃してるところ」と答えが返ってきてめちゃくちゃ笑う。丸刈りのブリトニー・スピアーズが傘でパパラッチ襲撃してるところの図案を左腕にタトゥー入れる子がいるんだ、この世に。

そうやって思いおもいに時間を過ごしていたら、突然、伯父さんたちのほうからわっと歓声が上がる。
アニャに聞くと、伯父さんが特別なクッキーを引き当てたのだそうだ。この家系独自の伝統で、苗字が「オオカミ」という意味なので、毎年クリスマスの手作りクッキーの中には必ずオオカミをかたどったものを一つだけ入れておき、それを探し当てた人を祝福するのだと。それを今年は伯父さんが引き当てた。
クッキーを見せてもらったらすごく可愛かった。人の家の風習の話、楽しすぎる。

それから伯父さんのアコースティックギターの演奏でクリスマスキャロルを歌って、プレゼント交換が始まる。部屋の中をたくさんのプレゼントの箱が飛びかっていき、みんなプレゼントを渡しては、ハグを交わしていく。きれいだな、と思った。私もプレゼントをあげる。私もプレゼントをもらう。

今年のクリスマスイブに突然の訪問者は現れなかったので、ひとつ余分のバルシチは「私が食べる!」と手を挙げたアニャの胃に収まった。

日記中に登場する現地の方々の人名は全て仮名です

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