【短歌30首】ラベンダー・サンダー — 谷川由里子

    ラベンダー・サンダー    谷川由里子

ドクが胸に挿したのもピーターラビットのうさぎたばこもラベンダー

くじけなかった日の満月はまるい月光に照らされる眼球よ

はじめての外耳炎のはじめての薬疹のラベンダー色のあと

ぺらぺらと捨てられている傘袋ぺらぺらが塞ぐ地面の一部

一度でも立ち止まったら動けないスーパーの入り口の青果コーナー

レンチンで鮮やかになるブロッコリー  心につられて蒸気を浴びる

湯上りにレモンを小さく切り分ける永遠にレモンサワーが飲めそう

手ピカジェル60㎖のミニサイズこまったときに握りしめる用

植え込みに重たいゴミを捨てないで  その緑は秘して語らない

ごみでつぶされた緑は日を追って茶色くなって死ぬ  な、阻止する

友だちが宇宙について話すからチョコメリゼくらい出るアドレナリン

じんわりとあったかくなるノートパソコン    よいしょって、膝の上に呼ぶ

したほうもびっくりしてた祝日に真正面から受けるチャランボ

十分にふくよかになるアディダスの黒いリボンの二十二センチ

靴を捨てる、と  つけてもらったニックネームをひとつ思い出せるよ

アメリカの大統領選ニュースにも天気予報のような動きが

幽霊は集まらないでひとりきり  ピッツバーグの三本の川

電気屋の黒一面のテレビ画面びかびかしない画面で売れる

燃えた日の一年あとに首里城が燃えた日に遡る、さかのぼる火

愛用のフィッシャーマンニットを着て釣りをするならさぞかし釣れる

潮の目が大好きだから潮の目を追いかけながら釣りをするんで、(釣りをするんで、)

この世には惹かれ合う関係もあるお手頃価格のチャンキーブーツ

植え込みの緑の葉っぱ昼間だけうまく目が合う生き生きするね

銀色の物干し竿に人懐こい小鳥のような洗濯ばさみ

コースターはインディアン柄ビビットなマゼンダレッドに珈琲を置く

明るい夜空にオリオン座をみせてくれる視力とタッグを組んで

真夜中の渋谷センター街を行く張子の虎はゆっくり進む

サイダーを胸のすくまで飲むとよい  まっすぐ見えるむらさきの月

化粧水つけるとわーってキャッチする皮膚の気分が同時にわかる

芍薬のような夢かもしれなくてパジャマの裏地の起毛ほころぶ

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