【俳句20句】オールドファッション — 福田若之

    オールドファッション    福田若之

紙のやわらかみ咳して思い出す

揺れうごく昼夜の末の枯れすすき

山並みが遠吠え色に暮れる冬

しぐれては木の実が土のうえに照る

水の涸れた筋目を鹿が駆けのぼる

風は樹のまなざし冬の野を届く

冬眠のときどき漏れる牙の毒

初雪と記すに満たず指の熱

鴨なのに遊覧船の顔をする

かまいたちの尾からこぼれた毛か知れない

冴えて鏡に髭のまぼろし髭を剃る

土手の下の道を車そして枯れ葉

葉牡丹は目に激しくも寂れゆく

冬の蛾と階段とまばゆいあいだ

日の暮れにお越しあそばす雪女

いまはむかしという氷柱めいた言葉

赦しを得ず火はあかぎれに沁みながら

明けしらむ枝垂れ桜の枝垂れ雪

風花は古いひかりを連れてくる

忘れたいのです冬の海その波間

◇福田若之(ふくだ  わかゆき)
一九九一年東京生まれ。俳句同人誌「群青」、「オルガン」に参加。第一句集、『自生地』(東京四季出版、二〇一七年)にて第六回与謝蕪村賞新人賞受賞。第二句集、『二つ折りにされた二枚の紙と二つの留め金からなる一冊の蝶』(私家版、二〇一七年)。

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