オールドファッション 福田若之
紙のやわらかみ咳して思い出す
揺れうごく昼夜の末の枯れすすき
山並みが遠吠え色に暮れる冬
しぐれては木の実が土のうえに照る
水の涸れた筋目を鹿が駆けのぼる
風は樹のまなざし冬の野を届く
冬眠のときどき漏れる牙の毒
初雪と記すに満たず指の熱
鴨なのに遊覧船の顔をする
かまいたちの尾からこぼれた毛か知れない
冴えて鏡に髭のまぼろし髭を剃る
土手の下の道を車そして枯れ葉
葉牡丹は目に激しくも寂れゆく
冬の蛾と階段とまばゆいあいだ
日の暮れにお越しあそばす雪女
いまはむかしという氷柱めいた言葉
赦しを得ず火はあかぎれに沁みながら
明けしらむ枝垂れ桜の枝垂れ雪
風花は古いひかりを連れてくる
忘れたいのです冬の海その波間
◇福田若之(ふくだ わかゆき)
一九九一年東京生まれ。俳句同人誌「群青」、「オルガン」に参加。第一句集、『自生地』(東京四季出版、二〇一七年)にて第六回与謝蕪村賞新人賞受賞。第二句集、『二つ折りにされた二枚の紙と二つの留め金からなる一冊の蝶』(私家版、二〇一七年)。