【短歌25首】ひらめくのは — 相田奈緒

    ひらめくのは    相田奈緒

 

換気扇回ってる音  朝食の後の時間の体の具合

ユーモアがからからになる私にもユーモアのある生活があった

おはじきのなかを流れている黄色  雪の匂いはしつこいくらい

とんがりコーンを口に入れながら朝らしい空気が消えていくのを見てる

十年も前の難聴  それ以降音楽を聴きにくくなったこと

開いているドアのむこうに見えている自動ドアが開いてそのむこう

刺繍には指の力が移されて今もある暗がりのタペストリー

夜になっていく水面に樅の木の幹が並んでいて動かない

花器にあって花びらは端から乾く昨日と今日を遡らずに

回転がゆっくり止まるルーレット  言いたいことが無いことがある

夜の雪かと思ったら とても静かな庭に散らばったゴルフボール

長い目で見ればすべてが柔らかいはず  山も崩れて  目を開けてごらん

視界から右斜め上に幽霊干しのセーター揺らされて  春の夜

宝石を透かした影は色付きの光なの  この言葉足らず

手鏡にも温度があってゆびさきがつめたい楕円形に映る壁

一日じゅう屋内にいて夕方に白い馬酔木の写真が届く

虹が出て虹を見逃す目の中に部屋の光が溜まっていった

      *

たらこのパスタソースを半分だけ使って冷凍うどんにからめて食べる

もったいなくて取っておいたりした物をあらかた捨ててしまう日が来る

すばしっこさ、みたいなことから縁遠い幼少期を経て青空の下

坂道が体を高いところへと運んで空に雲が動いてる

左手でひさしをつくる  見えてくる  まぶしい道を選んだとしたら

この先にひらめくのは何  梅の枝と枝の間に挟まってみた

樹の色が集まり山の色になるその両方をわかっていたい

ポスターが左上からゆったりと剥がれて春の風が吹いている

◇相田奈緒(あいだ なお)北海道出身、東京都在住。「短歌人会」所属。「神保町歌会」運営の一人。 https://note.com/aidana/



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